世界餅

日本人のソウルフードである餅を喉に詰まらせて亡くなる方が毎年後を絶たない。海外メディアでは、多くの人の命を奪うこの食べ物を「ホワイト・デビル・スライム」と呼んで畏れたり、危険を承知で食べ続ける日本人を嘲笑したりしていた。その顕著な例として2002年、米国食肉輸出協会(BSYK)のトップはこんなことを語っていた。

牛肉の除外該当部位を食べて死んだ人は皆無だが、日本のMOCHIは毎年10人以上の尊い命を奪っている。我が国から輸入した肉に僅かな不備があっても日本のメディアは大騒ぎをする一方で、MOCHIは連日のようにテレビCMが放送されている。これほアンフェアと言わずしてなんと言おう。

もっともな話である。日本の餅業者の組合はそれを受け、BSYKに反発するのではなく「お餅と一緒に牛肉を食べよう」キャンペーンを開始し、融和を図った。この方針に好感を持ったアメリカ側も前言を撤回し、2003年4月に「日本のMOCHIはアメリカンフードにも良く合う」との声明を出し、折からの日本食ブームも手伝ってアメリカでもMOCHIが食べられるようになり、これをきっかけに餅は全世界へと普及していった。そして現在、各国で餅を喉に詰まらせて死亡する人が後を絶たない。
不思議なもので、一度世界規模で受け入れられてしまうと「MOCHIは危険だから食べてはいけない」という意見は出てこない。ただ困ったことに「日本はMOCHIを世界に送り出した責任を取って、安全な餅を開発すべきである」という論調が高まってきた。世界は餅なしでは生きていけなくなったのだ。世界は餅を必要とすると同時に危険性の解消を求めている、餅は日本にとって諸刃の剣となった。
日本政府は専門家による対策検討を行い次のような方針が候補に挙がった。

  1. 喉に詰まらない餅を作る
  2. 喉に詰まっても窒息しない餅を作る
  3. 喉に詰まって窒息しても死なない人を作る
  4. 喉に詰まって窒息して死んでも惜しくない人だけの世界にする

慎重な議論が重ねられた結果、2006年12月に4が採択されるに至った。餅本位性による世界政府の実現への第一歩はここから始まったのである。