タリハの民話

タリハに伝わる民話にはある共通した特徴がある。どれも唐突に始まって唐突に終わるのだ。例えば「エチェベリと精霊」という話はこんな感じ。

仕方が無いのでエチェベリは靴底を草のツルで縛りそのまま歩き続けることにした。しばらくすると靴の隙間から小石が入り込み足の裏が痛くなってきた。一度引き返して靴を取り替えるか、このまま我慢して進むかを決めかねたままだらだらと歩いていたら木の上から声が聞こえてきた。
「青年よ、その帽子をくれたら良い靴をあげるぞ」
見上げると小さな老人が木の枝に座っていた。老人は見たこともない変な服を着ている。エチェベリにとっては願っても無い話だったが、履けない靴を貰っても仕方がないので、老人に確認してみることにした。
「爺さんよ、靴をくれるのはありがたいが、おまえさんの靴じゃ俺には小さいんじゃないかな」
すると老人はいかにも愉快そうな顔でこう言った。
「心配はいらねえ。わしゃあいろんな大きさの靴をもっておる。どれも丈夫で履き心地の良い靴だぞ」
エチェベリは老人の言葉を信じることにした。
「じゃあ、頼むよ。でもこんな帽子で良いのかい?」
「もちろんだ」
エチェベリは老人から受け取った靴を履いてみた。エチェベリに合わせて作ったかのような素晴しい靴だった。
「爺さん。ありがとうよ」
「例を言うのはわしのほうだ」
老人と別れ、エチェベリは森の奥に向かって更に歩いていくと、今度は日差しが強くなってきた。

これで終わりなのだ。おそらく老人が精霊なんだろうし、このあとまた老人が出てきて、エチェベリが持っている何か別の物とさっきの帽子を交換するという展開が予想されるのだが、この民話は必ずここで終わることになっていて、(今、俺がやったみたいに)勝手に続きを作って話したりすると、空からジョウィーリアという怪鳥が飛来して話を聞いた子供を連れ去ると伝えられている。他のお話についても同様だ。
その言い伝えとセットになった民話なのかもしれない。話を考えるのが面倒になった親が簡単に終わらせるためにジョウィーリアを考え出したのかもしれない。
これを読んだ人がジョウィーリアにさらわれたりすると面白いのだが。