風習

こちらではあまり日本の話をしない事にしている。何を言っても、みんな大笑いするばかりで信じてもらえないからだ。俺の事を冗談好きのおじさんか大嘘つきだと思ってるようだ。
それでも何か行事があると、日本でも同じような事をするか?と聞かれる事がある。以前書いたが、こちらでは節分を自国固有の行事だと思っている人がたくさんいるので、他の行事についてもあまり迂闊な事が言えない。
例えば、山間部のタクザウィ地方にはチャグ・チャグと呼ばれる行事があるのだが、この行事が、日本の岩手県からきた移民が持ち込んだ「ちゃぐちゃぐ馬っこ」であることを知っている人はほとんどいない。タクザウィ地方の人たちは自分たちの住む土地に誇りを持っているので、下手な事を言うと怒り出しかねない。チャグ・チャグに似た行事が日本にあるかと訊かれても、俺は「日本では見た事も聞いた事もない」と適当な事を言ってごまかしている(俺は岩手出身ではないので「ちゃぐちゃぐ馬っこ」には何の愛着もない)。
逆に、とんでもない行事が日本にあると思っている人も多い。例えば「切腹とは自らを生贄として捧げる行事で、今でも全国各地の市町村で毎月行われている」という誤解は結構根強く残っている。テレビでそういうドラマがあったそうだ。どうせ俺が何を言っても信じてもらえないだろうと思って「そんな風習は5年前に政府の命令で禁止になったので、よっぽどの田舎じゃないとやらないし、毎月なんてことはない」と言ってある。