怪談の時間

あれは、草木がまだ丑にも三つにもかからない、ある夏の日のことでございました。深夜のバイトからの帰り道、私はいつものように環七と豊後水道の間でベリーロールを少々スピードオーバー気味で飛ばしていました。仲間内で「魔のK字カーブ」と呼ばれる難所に差し掛かった時に起きました。
とんとん、誰かが私の肩を叩くではありませんか。時速70kmで疾走するベリーロールに乗っているとは言え、肩を叩かれるなんてそう滅多にあることではありません。私は思わず後ろを振り返えろうとしました。
「いや、待てよ『魔のK字カーブ』では命を落とした人も多いと聞いている。ひょっとしたら幽霊かもしれないぞ」
馬鹿な考えが一瞬だけ頭をよぎりました。しかしすぐに、
「俺は何を考えているんだ。国鉄も民営化されようっていうこのご時世に幽霊なんか居るはずないじゃないか」
と思い直し、後ろを見てみると、そこには首のない女がにやりと笑って立っていたのです。
私がヘルメットの中で声にならない悲鳴を上げ、ベリーロールのアンテナに必死になってしがみついていると、女は妙に甘えた声でこう聞きました。
「お兄さん、私の頭知らない?」
私は必死で女を指差し、出来る限りの大声で叫びました。
「お前だー!」
すると女は泣きながら『魔のK字カーブ』に向かって駆けだし、そのまま城壁にぶつかって粉々に砕け散ってしまいました。私は九死に一生を得たのです。
それ以来、私は毎年夏になるとあのK字カーブに行き、粉々に砕け散った首なし女の事を思い出してはゲラゲラと笑うのです。
あれから20年、もしあなたの街で首のない女が元気に走り回っていたらそれは、首子の生まれ変わりかもしれませんよ。

(こちらで定番の怪談を日本風にアレンジしてみました)