ミステリーの時間

「まず、一件目ですが、5月12日深夜、遠井町の人気の少ない路地に面した薬屋ミシマドラッグのシャッターの前に、複数の死体が並べられているのが発見されました。被害者の身元は翌日中に全員判明しました。その日の21時から23時にかけて、付近を通った可能性があるという点を除いて、被害者の間に関連は全く見つかっておりません。」
「二件目はその10日後22日の深夜に、上井原町の風の子公園の砂場に丁寧に並べられた複数の死体が並べられているのが発見されました。この公園は最初の現場から歩いて10分程度の場所にあって、ミシマドラッグを知っている人なら大抵知っている公園と考えてよいでしょう。一件目と同様に被害者の間に共通点はありません。ただ、2回の事件の間には、発見者がともに近所に住む青沼静子であることと、被害者の人数が共に5人であるという共通点があります。」
「そして、上井原町の事件から17日後の、6月9日、遠井町の西端にある相茂川にかかる平和橋にやはり死体が5人分並べられているのを、またも青沼静子が発見しました。被害者については前の2件と同様です。」
「整理すると、この3件に関して共通してるのは、まず被害者が5人であること、被害者の間に共通点は無さそうなこと、死体は1箇所に並べられていること、そして発見者が青沼静子であること。こんな所でしょうか。」
「あと必ず深夜に発見されてますね。」
「それは青沼静子が発見者であるという点にも関係するのですが、青沼の証言によると彼女はここ二、三ヶ月、毎日終電ぎりぎりまで働いているとの事で、これまでの3件とも帰宅途中に発見しています。」
「それにしては、場所が散らばっていないですか?」
「青沼の最寄駅は新遠井と上井原なのですが、どちらの駅からも同じくらいの距離なので普段は上井原で降りて、買い物があるときは一つ先の新遠井で降りるそうです。」
「青沼自身の裏は取れてるのか?」
「3件とも疑う余地の無いほどシロです。」
「となると、意図的に青沼に発見させたとしか思えないな。」
「いずれも人通りは少ない場所ですが、偶然とは考えにくい状況です。」
「青沼静子の経歴は調べましたか?」
「はい、特に変わった点はないのですが、過去に一度ストーカー被害に遭ってます。」
「相手は今どうしてるの?」
「目の前に現れることは無くなったものの、時々メールを送ってくるそうです。気持ち悪いけど、回数も少ないし文面もおとなしい内容なので、まだ通報はしていないと言ってました。」
「何か、様子を窺ってるような感じだな。」
「はい、私もそう思いました。」
「多分そいつだろう。」
「確かに怪しいと思うけど、なんでまた?」
「死体は毎回5体並べられていたんだったよな。」
「はい、毎回そうです。」
「ア・イ・シ・テ・ルのサインだ。」