スモウ

日本のニュースは欠かさず見てるが、横綱の問題については、やはり微妙なニュアンスが把握できない。周囲の人たちも俺が見てるZAKZAKの画面をのぞき込んで、このチョンマゲは何だと聞いてくるが、俺自身がよく解ってない話を説明するのは難しい。

「彼はスモウレスラーだ」
「スモウとはなんだ」
「千年以上続いてる日本の伝統的な格闘技だ」
「それはすごい。千年前といったらスペイン人が来たときより前だろう」
「もちろんだ。ナウマン象がいた時代だ」
「スモウレスラーは強いのか?」
「体がでかいので力はあるし、大きいくせに動きはそこそこ素早い。しかも柔軟性がある。逃げ回ることの出来ないフィールドでお互い武器を持たずに戦ったら、まず勝ち目はない」
「恐ろしい」
「日本には『スモウレスラー5人で一個師団』という言葉があるくらいだ」
「このスモウレスラーも強いのか」
「この男はヨコヅナという最高の位を持ったスモウレスラーだ。ヨコヅナは1000人いる相撲レスラーの中で1人か2人しかなれない。しかも弱くなったら引退するしかないのだ」
「つまり、今、最高に強いスモウレスラーということだな」
「この男一人で小さな町くらいなら壊滅させることができるだろう」

「恐ろしい。そんな格闘技があったとは知らなかった」
「日本にはスモウレスラーを格闘家というよりも自分たちの国を代表する立派な人物であると考えている人も多い」
「で、この男はどうしてニュースになっているのだ」
「仮病を使って、重要でない試合を休んだという疑いをかけられているのだ」
「スモウレスラーは仮病を使ってはいけないのか?」
「ヨコヅナは嘘をついてはいけないという厳しいルールがあるのだ」
「なんて恐ろしい」
「伝統的な格闘技なので、組織が閉鎖的で形式を重んじるという傾向は大いにある。国民もまたスモウレスラーに対して自分たちの国を代表する美徳の持ち主であることを要求しがちだ」
「うまく想像できないが、まさに神秘の国という感じがする」
「そのため、テレビや新聞は彼を悪人扱いして厳しく責めているのだが、彼は仮病ではないと思っているので、心身ともに参っているのだ」
「なるほど。本当に仮病かどうかはともかく、テレビや新聞に責められたら参ってしまうのはどの国も同じなんだな」
「そう。それで彼は自分の国に帰って治療した方が良いという意見と、日本で治療した方が良いという意見が対立したんだが、結局自分の国でゆっくりと…」
「ちょっと待て」
「なんだ?」
「この男は日本人ではないのか?」
「そうだ」
「スモウは伝統的な格闘技で、ヨコヅナは日本を代表する立派な人物なんだろう?」
「そう考える人もいる」
「で、スモウは閉鎖的な組織で、国民は自国を代表する人物であることを求めていると」
「すべてではないが、そういう傾向がある」
「でもそのトップが日本人じゃないんだな」
「そうだ。今、もう一人ヨコヅナがいるがその男も日本人ではない」
「伝統的な格闘技にしては門戸が開かれているんだな」
「開かれているが、閉鎖的なのだ」
「神秘的だ」
「実は20年くらい前は、外国人がスモウレスラーになることは珍しかったし、強い外国人レスラーが、昇格することに反対した人も居た」
「さっきはそう予想した」
「だけど、スモウの世界は厳しくて豊かになった日本ではなかなかスモウレスラーになろうという若者が現れないのだ」
「なんだそれ、精神性とか全然関係ないじゃないか」
「そうかもしれない」
「訳が解らない」
「実は俺も超強いデブの喧嘩なんじゃないかって思ってたんだ」

とりあえず、俺の周囲の人たちが相撲に詳しくなったことは間違いないようだ。