ニカラグア焼き

川柳では「塩しょう油 黄色い目玉で 大合戦」なんてことを申しまして、昔も今も目玉焼きに何をかけるかで揉めてたようでございます。先日もうちのガキが「お父ちゃん、ぼくの目玉焼きには、大外刈りをかけてちょうだい」なんて生意気な事を言いやがる始末で、こうなると、どこまでがおかずなんだか解ったもんじゃありません。

どんどん どんどんっ どんどん どんどんっ
「新の字、新の字、居るんだろ。つべこべ言わずに早く起きろ」
「なんだい、朝っぱら誰かと思えばカブレラじゃねえか。どうだい?今年はホームラン王とれそうか?」
「無理言っちゃいけねえよ、復帰したばかりだってのに。いやいや、そんなことより大変なんだよ」
「どうしたってんだい。東尾の対談なら読んでねえよ」
「そんなんじゃないっての。ニカラグアが大火事になったんだって」
「なに、ニカラグアが火事だって。こうしちゃいられねえや。おーい、ちょっと出かけてくるぞ」
「なんだい、この子は朝っぱらか大声張り上げて、あら、カブレラちゃん。どう?今年はホームラン王とれそうなの?」
「無理言っちゃいけねえよ、復帰したばかりだってのに。てどうしてこの親子は同じ事を聞くんだろうね」
「そんなこたぁ、どうでも良いんだ。それよりニカラグアで火事が起きてるんだとよ。ちょっくらでかけてくらあ」
「あいよ、気をつけてね」

こうして、二人はニカラグアに向かったわけでございますが、行ってみるとニカラグアでは、あちっからボー、こっちからガーと火の手が次々とあがって、そりゃあもう大変なことになってるわけでして。

「おう、新の字。大丈夫か?」
「あたぼうよ。こっちの鉄板は良く焼けてるなあ。俺はこれで焼くことにするぞ」
「だからお前は甘ちゃんだってんだ。見てみろそりゃチタンだぞ」
「いいじゃないかチタンのどこが悪いんだ。お前こそなんだ、その紫の鉄板。ベネズエラ人は粋ってもんが解らないから困らぁ」

なんてことを言い合いながら、程よい鉄板を探して、卵を次々と焼けた鉄板の上に落としていくわけですが、そうするってえと向こうの方からおっかないお兄さんが、たまにお姉さんがやってくるわけでございます。

「おうおう。お前さん達誰に断って、目玉焼きを焼いてイルノデスカー」
「あらら、最後だけ外人さんになっちゃったよ。この人」
「新の字、ここは外人同士ってことで俺にまかしときな」
「さっきから黙って聞いてりゃごちゃごちゃ抜かしやがって、頭カチワリマース」
「まあまあ、そんなこと言わずに旦那。ここは、あっしのホームランボールでひとつ」
「お、お前さん話が解るじゃねえか。最初からそうしておけばヨイノデース」

そうこうしているうちに、目玉焼きがじゅうじゅうといい音を立てて焼けてくるってえと、どこからともなく、腹を空かせた火事場泥棒達が集まってくるわけでございます。

「お兄さん、ひとつ目玉焼きをくれよ。両面焼きで頼むよ」
「私は2ツデース」
しょう油がないぞー」
「唐辛子かけすぎた」

なんせ、火事場泥棒ばかりなもんですから、勝手なことばかり言い出して、しまいには焼けた端からぶんどって行こうとします。カブレラはそいつらの頭をバットですこーんすこーんと片っ端からかっ飛ばしますが、多勢に無勢、最後は二人して逃げ出すことになってしまいます。

「はあはあはあ、ここまでくりゃ大丈夫だろう」
「やっぱり、目玉焼きってのは難しいもんだな」
「でも、ひとつ解ったことがあるぞ」
「お、ホームランを打つコツでも掴めたのか?」
「今度はお茶が怖い」