商店街危機一発

川柳では「右肩が 濡れて嬉しや 通り雨」なんてことを申しまして、雨というのは何かしら小さなドラマをいたずらに呼び起こしたりすることがございます。先日もうちの事務所の女の子がちょっとお使いに行った帰りににわか雨に遭いまして、たまたま私が通りかかったもんですから「あら、ボリビアさん。その傘私に貸してくださらない?」などと抜かしやがりまして、おかげでこっちはびしょ濡れで帰る羽目になっちまいました。え?貸す方も貸す方だって?あたしだって弱みの一つや二つございますからね。

カーンカーンカーン。丑三つ時を知らせる鐘の音が高らかに響き渡る、帝都ハバロフスク。この街もご多分に漏れずバブル崩壊の余波が訪れ、ハバロフスクニコニコ商店街は今や壊滅直前の危機を迎えていたのでございました。

ニコニコ商店街のはずれにある集会所では、今日も出口のない会議が繰り返されています。
「会長さん。このままではこの商店街は崩壊してしまいますぜ」
「ほうかい」
「何とか手を打たないと、どの店も閉店せざるを得ないですよ」
「飯はまだかのう」
一同は会長が惚けてることに気づいてないようです。

一方、郊外のショッピングセンターの野菜売り場では、大男が買い物客に紛れてなにやら不審な動きをみせておりました。
「これが、噂に聞く名刀『副都心』か。見よこの妖しさと童顔のアンバランスが、実に加虐性を刺激するではないか」
「しかも山廃仕込みでございます。新右衛門様」
「元九重親方、御主、解っておるではないか。手に入れた者がみな生きた人間を斬ってみたくなるというこの名刀、さぞかし多くの血を流してきたのであろうな」
「そりゃあもう、地元の古くさい店を潰しにかかった大手パチンコ屋顔負けの出血大サービスにございます」
「なるほど、ならばこの新左衛門が新たな血を流したところで、どうってことはないな」
バサリ、名刀副都心がすうっと振り落とされると元九重親方は真っ二つに。
「うう、新右衛門でございましょう…」

そんな騒ぎを知ってか知らずかニコニコ商店街の寄り合いでは、不況の打開策も見つからず不毛な会議が繰り返されていたのでございました。
「どうだい?この商店街がオーナーとなってプロ野球チームを持つってのは?」
「馬鹿だなあそんな金どこにあるって言うんだよ。この商店街の金を全部集めたって中継ぎピッチャーの一人だって雇えやしないよ」
「だったらウグイス嬢だけでもなんとか」
するってえと、隅の方で今日8回目の飯を喰らってた会長がおもむろに立ち上がり
「金ならある」
と言うが速いかすっくと素早く立ち上がり、畳をぽんと叩くと、畳はばさあっと跳ね上がったのでございました。ご老体のどこにそんな力が残って居たのだろうと、皆が首をかしげる中、会長はめきめきと床板を剥がし古びた壺を取り出したのでありました。

一同が恐る々々壺の蓋を開けると中には数え切れないほどの大判小判がこれでもかと言わんばかりにざっくざくと詰め込まれておりました。
「こんな壺があと、30はある」
会長は呑気にそう告げると何事も無かったかのように9回目の飯を食べ始めたのでございます。
「やった、これでプロ野球チームがもてるぞ」
「どこを買い取ろう?」
「選手はアメリカからじゃんじゃんとってくるだよ」
村人はもう大騒ぎです。そんな中、9回目の飯を食べ終えた会長がナイフとフォークをかちゃりと置き、一同に告げました。

「今度はお茶が怖い」