散歩

今日も近所にぶらりと散歩に出かけた。近所の人たちは俺が何者であるかを知らないので気が楽だ。日本に居たときはこんなこと想像もできなかった。いや、嘘はよそう。日本に居るときも気楽に散歩できたじゃないか。でも、そう思いながら散歩すると楽しい。
家から五百メートル程先にある家の住人はこの辺では珍しく犬を飼っている。ギルメリという名前の中型犬だ。種類は解らない。日本ではあまり知られていないが、犬という生き物は高地で長年暮らしていると性格がかなり温和になる。犬は元々それほど凶暴な性格ではないのかもしれないが、高地の犬はあからさまに温和な性格をしている。
俺がギルメリにおはようと話しかけると、嬉しそうに尻尾を振って陽気に「ワン」と吠えた。ポケットに入れてたビスケットをあげると、またまた尻尾を振って「ありがとう」とお礼を言った。良い犬だ。天気も良かったので一緒に散歩に行くのはどうだろうと思い、今日はもう散歩に行ったのか訊いてみたら「今日はまだですよ」と言う。飼い主は顔見知りなので、一言断ってギルメリと一緒に散歩に行くことにした。
犬と一緒の散歩はとても楽しい。ギルメリも楽しそうだ。俺とギルメリは、去年の流行語大賞やギルメリという名前の由来や裏山に住む変なおじさんの話などをしながら近所を歩き回った。途中の公園では馴染みの大型犬にも会った。俺とその犬の飼い主が世間話をしている間、犬同士は駆けっこやしりとりをして遊んでいた。三十分ほどしてギルメリの家に戻り、ギルメリにさよならを言って家に帰った。ギルメリは「また連れてってくださいね」と言ってた。良い犬だ。
言い忘れてた。日本ではあまり知られていないが、犬という生き物は高地で長年暮らしていると言葉を話すようになる。