珍しいトンボ


昆虫には、道具を使うもの、キノコを育てるものなど珍しい生態を持つものがいるが、コロンビアの山間部にすむ、ミスジ・クノウ・トンボもそうとう変わった生態を持つことで知られている。
日本にもいるギンヤンマを二回りほど大きくしたくらいの地味な外見で、強いて言えば羽に3本の筋が入っているという点くらいしか特徴はない。食性についても他の種類と比べて目立った違いはなく、普通に他の虫を捕らえて食う平凡なトンボだ。
このミスジ・クノウ・トンボの最大の特徴は、その名前の通り苦悩するという点にある。ヤゴから成虫になった瞬間から苦悩は始まり、死ぬ瞬間まで常に苦悩し続けるという、大変面倒くさい習性を持つ。しかも、頭を抱えたり、落ち着き無くうろついたりすることもなく、苦悩を表に出さず、ひたすら内省的な悩みを持ち続けるのだから事態はより深刻だ。
ミスジ・クノウ・トンボは、一方で妙に達観した一面を持っているのか、その苦悩が解決することは無いと諦め、建設的な行動を起こすことは全くない。まして、ミスジ・クノウ・トンボ同士で相談するといったことは決してない。彼らはひたすら苦悩しつつも、淡々と餌を捉え、水を飲み、卵を産んで死んでいくのだ。
ミスジ・クノウ・トンボが何に対して悩んでいるかという点については、特に研究は成されていない。どうせ、トンボの悩みなんかたかが知れているからだ。