続・伝承歌

先日、正調以外の「裁判の歌」を集めてるのでご存じの方が居たら教えて欲しいと書いた。(参考
このブログは日本の人に向けて書いているので(日本語で書いている事にお気付きだろうか)、知っている人は少ないだろうとあまり期待をしていなかったのだが、予想に反して多くの方が「裁判の歌」を教えてくれた。大変ありがたい事だ。
中には明らかにボリビアの伝承歌ではないものが混じっていたが、これは日本に誤って伝えられたのか、日本語訳の過程でアレンジされたか、日本版の独自の歌が派生しているものと思われる(悪意は無いと信じたい)。以下、ご応募頂いた「裁判の歌」に関して検討してみたい。

おまえはオレンジ レンジを歌った
これはフルーティなことだ
デコポンを与えよう オーヴンは自分で買え

"オレンジ レンジ"の意味がわからないので検索したところ日本のアイドルの名前と判明。デコポンに相当する柑橘類はこちらにないことも併せて、日本独自の歌と判定した。

おまえの今夜の飯は鍋
これは羨ましいことだ
明日は鍋かぶれ あたまからかぶれ

これは聞いたことがある。地方によっては最後の行は「明日はお前の番 今からつかってろ」になっている。

おまえはネズミの着ぐるみの中
これはなんとも英雄的行為
一生入ってろ 4本指けけけ

これは判断不能だが、フォーマットからかなり外れているので、こちらの伝承歌とは無縁のものである可能性が高い。

おまえは玉子の黄身を割った
これは勿体ないことだ
汁を飲み干せ 残さず飲み干せ

聞いたことはないが、サンタクルス南部では卵をとても大事にしているので、このような歌は充分にあり得る。

おまえは線路に落ちた
これはよくあることだ
電車より速く走れ 電車に向かって走れ

電車が出てきた時点で違う。あと電車より速く走れないし、走れたとしても電車に向かわない。

おまえは野菊のような人だ
これは詩的なことだ
叔父さんを殴れ そして謝れ

申し訳ない。これは俺が日本風にちょっとアレンジした。実際は野菊ではなくてカントゥータだ。

おまえは夜更かしをした
これは不経済なことだ
テレホーダイに入れ 今さら入れ

テレホーダイはこちらにはない。ただ、夜更かしを諫める歌は沢山あるので、日本に入ってアレンジされた可能性が高い。

おまえは風呂上がりに何も着ない
これは破廉恥なことだ
道行く人に見せに行け 湯冷めには注意

これは微妙だがこんな歌はありそう。実際にやると捕まる前にリンチに合うので注意。こちらでは露出狂にはどんな罰を与えてもよいという暗黙のルールがある。

おまえは役立たず毎日飯を喰う
これは穀潰しなことだ
月1にしろ 飢えろそして渇け

この不条理さも裁判の歌ぽい。本物の可能性が高い。

おまえは密入国したんだろ
これはみんなが知っている
褒めてつかわす 明日から奴隷

こちらは一見本物ぽいが「奴隷」という単語は伝承歌には絶対に出てこないので(特に意味のないNGワードらしい)、日本でアレンジされた物とみて良いだろう。

おまえは電車で寝過ごした
これは誰でもやることだ
今日から毎日寝過ごそう 運転席でも寝過ごそう

これも電車が出てきてるので違う。あと3行目だけ立場が違うのもあり得ない。

おまえは飛行機に乗った
これは地に足が着かないことだ
早く降りてこい 自分の尻にキスをしろ

これも飛行機が出てるので違う。もしかしたら「おまえはコンドルに乗った」だったのかもしれない。

おまえはヤギ汁を作った
これは美味しいことだ
ヤギの尻にキスをしよう おまえの尻にキスをしよう

これは有名。ただ3行目は「ヤギの尻にキスをしろ おまえの尻にキスをしろ」の方が正確。

おまえは階段を一段とばしで上がった
これは贅沢なことだ
彼女の尻にキスをしよう 女房の尻は蹴っ飛ばせ

聞いたこと無いが本物ぽい。「尻にキス」が出てくるのはアメリカ文化に影響を受けた比較的近年に近い物。

おまえはちょっとハンサムだ
これはうらやましいことだ
ポンと叩こう げしッと蹴ろう

多分、日本向けにマイルドに訳されている。3行目は「顔を殴ろう 顔を蹴ろう」と、ハンサムに対する嫉みに満ちた歌詞の筈だ。